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サラリーマン賛歌

土曜日の各駅停車はすいていて、人影もまばらだった。

向かいの席には30代前半と見える男性が座って、
静かに本を読んでいた。

次の次の駅で、いかにも落ち着きのなさそうな、
スーツを着た若造が乗り込んできて、
30代前半と見える静かに本を読んでいる男性に、

「あ、タナカさん!久しぶりッスねえ!」と声をかけた。

「おお、久しぶりやなぁ、元気か?」

本から顔を上げて薄く微笑んだタナカさんは、
若造の先輩らしかった。

会話によれば、ふたりは元同僚で、
少し前、若造の方が、嫌気がさしてあっさり会社をやめ、
目下求職中らしい。

若造は、落ち着きのない身振り手振りからも、
自信たっぷりな口調からも、
いかにも危なっかしい希望に満ち溢れていた。

「また土曜出勤ですかぁ?相変わらずですねぇ」

若造はタナカさんのいでたちを見て、
ちょっと小ばかにしたように顔をゆがめた。

「僕ね、今からまた面接なんっすよ、
めっちゃ条件いいとこでね……」

若造が降りていくとき、タナカさんは座席から少し腰を浮かして、
意気揚々たる後姿に、
「がんばれよ!」と小さく声をかけた。

いいなぁ、タナカさん。

タナカさんはもちろん知っているのだ。
会社をあちこち何回替わろうとも、
それぞれの職場にはそれぞれの働きにくさがあり、
気の合わない人がいたり、いやな上司にあたる危険があったり、
土曜出勤しなければならない日だってあることを。
その中で、やりがいを見つけ、自分の居場所を作っていくのは、
自分自身なのだということを。

それでもタナカさんは訳知り顔に、教え諭したりしない。

危なっかしい後輩の希望に満ちた背中に、
ただ静かにエールを贈るのだ。

「がんばれよ!」と。

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