たかがOLされどOL(会社)

柄タイツNG

元同僚の新しい職場では、
服装について、ことこまかに規定されているそうである。

その子が、

「ミュール、ブーツ、柄(がら)タイツもNG」

というとみんなが、

「ミュールはわかる」と頷いた。

「普通に歩いてても脱げそうで危ないし、
あれって簡単にいうと”つっかけ”だから、
仕事向きじゃないよね」

「でも、ブーツのどこが悪いの?」

「さー?」

「足首が固定されてて、かえって歩きやすいのにねぇ」

「要するに、『ファッションを前面に出して働くな』ってことじゃない」

「はー」

だれも納得しない。

「…にしても、柄タイツNGって…」

みんな、「しーん」と無言なのである。

「だってさ、『柄』って、どこからが『柄』よ?
無地の小さいダイヤ柄もダメなの?」

「さー?」

問い詰めたら結局、
「常識の範囲!」とかいわれるんだろう。

どっちみち、おじさん達が決めたんだろうなぁ。

ファッションは、
簡単にルールブックに載せられるほど、
単純じゃない。

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木枯らし一号

昨日の途中から、一気に寒くなった。

オフィスビルを出ると、
ひゅお~、ひゅおおおおお~と、
風が落ち葉を抱きこんでくるくる舞い、
みんな「きゃー」といいながら、
慌てて薄手のコートやカーディガンの前を閉じて、
でもなんか楽しそうなのである。

工場のMさんが電話をかけてきて、

「ぼく、落ち込んでますねん。
納期トラブって……。
部品メーカーいうたらね、
不具合の理由わからんいいよりますねん、
わかってるくせに。
八方ふさがりですわ」という。

「だからお祓い(はらい)行こうと思てますねん。
伊勢神宮あたり。

伊勢神宮やったら日本で一番古いし有名やし、
ご利益ありそう思いません?

そこで赤福食って、××して、○○も行って……」

Mさん、
どう訊いてもあんまり落ち込んでないよね?(笑)

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新しい業務

最近他の部署から移ってきた人が、
社員としての経歴は長いのに、
与えられた守備範囲の、
まだ一部しかやっていない段階で、
「もうムリ」とか「担当を替えてもらいたい」とか、
あっさり白旗を揚げるから、
前任者が、いつまでも引き継ぎを終えられなくて、
途方に暮れている。

私は、仕事は「押し付けあう義務」ではなくて、
「奪い合う権利」だと思っているので、
「え?いらないの?じゃ、もらっちゃうよ」という訳で、
その人が放棄した担当を、
新しく持つことになった。

新しいことをするのはいつも面白い。

新しい人との出会いがあるし、
新しい発見をする一方で、
新しい「いやなこと」が出てくるだろうし、
新しいことで失敗して、
新しく後悔するだろう。

でも、新しいことをするのはやっぱり面白い。

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ヨッパライ

送別会があって夜遅い電車に乗ったら、
遅いから、すいているかと思いきや、
右も左もヨッパライだらけだった。

会の中でお酒の席の武勇伝になると、
向かいの席の人たちが伸び上がって、

「だまれだまれ、オレがしゃべる」

餌に群がる鯉みたいに、
折り重なって話そうとする。

みんな時々、
酔っ払って記憶喪失になりたいらしい。

また別の場面で、よその課の上司が、
途中までグチって、

「あ、やっぱやめとこ。
あんまりいわんとこ」

オイコラ!

そこまでいったら最後まで言えよ、
よその課の上司!

あれ~、クダ巻いちゃって、
私もヨッパライ?(笑)

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そこが悩みどころ

Oさんはとても忙しい。

Oさんは、いろんな人にあれこれ頼まれて、
「ハイッ!」といい返事をし、
それをまた、ぱぱっとやるから、
ますます依頼が舞い込む。

そうやって、常時たくさんの納期トラブルを抱えているのに、
今日、電話で誰かがさらに、
無理難題を押し付けてきたらしい。

Oさんは、苛立つのを押さえるように、
ちょっと間を置いて呼吸して、
電話を握りなおし、トーンを落として、

「あのね、××もやばいし、○○もモメてるんです」

と努めて冷静に答え始めた。

「そうこうしてるうちに、
△△にも火がついてきたし、
ぼく、
どのモグラ叩けばいいんですかね?」

がんばれ、Oさん!

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親切・丁寧が売りでございます

世界のほうぼうを旅した人たちと、
住むならどこか?という話をしていたら、
ひとりが、

「住むならどこかって?え?…大阪」

と、おばちゃんみたいなことをいう。

他のみんながのけぞって、「えー」と答えた。

「だってやっぱり便利やもん、日本。
なんでも揃ってるし。
それに、なによりも人が親切」

と今度は、礼節がまるでない国で育った外国の人みたいなことをいう。

「だって、イギリスで住むとき困ったわぁ、
なんでも自分でせなあかん。
『そのくらいやってよ』っていうことまでこっちでやらされて、
頼んだらいちいちお金がかかるし。
その点、日本って親切やん?どこの企業も。
ガス引くのも電気引くのも、
『そのくらいは自分でやるよ』っていうことまで、やってくれちゃう。
料金に含まれてないようなことでも。
ヘタしたら、おまけでやってくれることの方がでかい、みたいな(笑)」

はー、そんなもんかな。
それが普通かと思ってた。

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エクセルの気持ち

私達はみんな職場で、
表計算ソフト・エクセルを使っている。

関数を使って集計したり、グラフを描いたり、
時には、ただの文章作成もしたりなんかして、
老若男女を問わず、毎日使っている。
使わないと仕事にならない。

でもエクセルには、
計算やグラフ以外に、果てしない便利な機能が、
わんさかあるのだ。

その果てしない機能のうち、
自動処理(マクロ)が走るのを見ていたおじさんが、

「うあ!
こんっなこともできんのか、エクセルて!」と叫んだ。

「知らんかったわー、ほんまかいな。
僕ら、ソフト代3万円のうち、30円くらいしか、
つこてへんのかもしれへんなぁ」

私も50円分くらいかな…。

エクセルの身になってみれば、
いつでもスタンバイOKなのに、
さぞイライラしているだろう。

もっといろんなことができるのに、
待てど暮らせど、
「足し算、引き算、ぜいぜい関数?
え、そこだけ!?」
みたいな(笑)

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怒ってルンです

ときどき、

「あーもう、思い出したらまた、ハラがたってきた!」

とかいう人に遭遇すると、恐れ入ってしまう。

わざわざ思い出してまた、
ハラを立てるそのエネルギーは、どこから沸いてくるんだろう。

そういう私も今日、会社を出るとき、
結構怒っていた。

私を含め、いろいろな人を振り回していながら、
ヘラヘラ笑って「ごめんねぇ」という人に、

「『ごめんねぇ』ってアンタ!
悪いなんてぜんぜん思ってないでしょ!?」

と、山の上から叫びたい気分だった。

でも、本を読んだり、夫や姉にメールを打ったり、
1時間ちょっとかけて電車に揺られているうちに、
「あ~、晩御飯どうしよかなー」と思い、
「また週末だぁ♪何して夜更かししようかな」と考えているうちに、
気づいたら忘れていた。

そしてもう、「怒り」は戻ってこなかった。

私には、わざわざ思い出してハラを立てるようなマグマが、
ふつふつと沸いていないらしい。

でも、できごとはネタとしてしゃべりたい。
ただ、勢いがちょっと違う。

「怒ってるんですっ!(怒)」じゃなくて、
「怒ってルンです」……みたいな(笑)

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MRI

小太りのAさんが腕を痛めて、
レントゲンまで撮ったが、
これといって骨に異常も見当たらない。
もちろん外傷もないし、でも長いこと、痛みが取れなかった。

ある晩、みんなが残業していたら、
そのAさんがお医者から戻ってきて、
40センチ四方の大きい封筒を抱えている。

MRIを撮ってきたのだという。

MRIというのは、レントゲンみたいに、
正面から平面的に骨の様子を撮るのではなくて、
いってみれば、
腕の断面を、
ちょっとコマずつ撮影した、連続写真なのである。

どういう仕組みなんだか、原理は知らない。

もう日はとっぷりと暮れ、
みんな仕事にも飽き飽きして、
でもまだ帰れなかったので、
誰からともなくAさんの席に集まって、
「見せろ見せろ」の騒ぎになった。

気弱なAさんは、もちろん最初抵抗したけれども、
結局、みなの勢いに負けて、
封筒からそおっとネガを取り出した。

黒いネガに、
無数のAさんの腕の輪切りが映し出されていた。

「へー、すごい、こんなの初めて見た。
これが真ん中の骨だよね、
こっちがたぶん腱(けん)で……」

黒っぽく映った肉の周りがぐるりと、
数ミリの幅で綺麗に白く輝いていた。

小太りのAさん……あ~、脂肪だ。

Aさんを取り囲んでAさんの腕の輪切りを見降ろしていた私達は一様に、
「これって……」と言葉を濁した。

「ロースハムそっくり」

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ホメ言葉?

会社の若い男子が散髪して、
五分刈りよりちょっと長い、七分刈り。
やわらかい髪がほわほわと突っ立っている。

「爽やかでいいんじゃないの」と私は思っていたら、
同僚の一人が、
汗をかいて少しずつ束になったその人の頭を見て、

「かわいいからさぁ、まぁ、いいねんけど、
なんかさぁ……」

一同が次の言葉を待った。

「ウッドストックみたい」

(≧∇≦)(爆)

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「ランナーズプラス」オープン!

大阪城周辺をコースとしたジョガーが多い中、
ついに、
「ランナーズプラス」ができた。

ランナーズプラス

JRの遊休地に、ASICSやSWANSの協賛で建てられたもので、
東京には皇居周辺などの他数箇所にあるそうだ。

シューズなどの私物を置いておけるロッカーのほか、
シャワールームや酸素カプセルもあり、
朝7:00から夜は21時半まで営業しているので、
就業前や定時後に、手ぶらで立ち寄れるそう。

ジョギングは基本的に、コストがかからないはずなので、
施設利用料月3200~6500円(会員の場合)や、
1回700円はちょっと高い気がするけど、
OBPは一応ビジネス街なので、
毎日通う職場の近くなら、利用する人も多いかも。

ひとっ走りしてシャワーを浴び、
そっから出勤したらたぶん、気持ちいいぞぉおおおお~!
会議中に寝そうだけど(笑)

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スリルに変えて

送別会があった。

今回職場を去る彼女は大変有能な人で、
大変有能な彼女がなぜ、
今のこの、穴だらけの職場(笑)でがんばっているのかしらと、
つねづね思っていたけれど、
最近になって合点がいった。

彼女はいうのだ。

「ルーティーンなんか、
ほっといても誰でもできるやん。
イレギュラーを効率よくこなしてなんぼ」

あ~。

つまり、職場の「いけてなさ」こそが、
彼女の腕の見せどころだったわけだ。

デキのいい人たちばかりがそろい、
誰でもあっさりできるように仕事の手順が整備され、
何事もなく無事毎日が過ごせるような場所では、
つまらない。

並みの人ならパニクるか、カリカリきちゃうような場面で、
次々襲いかかってくる難題を、
「トラブル」ではなく「スリル」ととらえて、
いかに短時間にクールに、効率よくこなすか、
そこに、やりがいを感じていたってわけ。

それもこれも、彼女が有能だったからだよなぁ。

職場は惜しい人を失くす。

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明日会社だとしても

昔、ぱんきちが出社してきて、

「おはようございまーす♪」

といったら、彼女の上司が、
ドラフター(図面を描く製図台)から顔も上げずに、

「ぱんきち、
ギョーザは週末だけにしろ、いうてるやろ」といった。

顔も上げずに。
うぐぐぐ…。

ぱんきちの仲良し一家は確かに、
しょっちゅうおうちでギョーザパーティをしていたのだ。

だっておいしいんだもんねぇ。
翌日会社だとしてもさ。

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鏡の中の自分を見ながら

春先、多くの同僚が、
理不尽な雇い止めにあって職場を去った。

その記憶がまだ生々しい今、また一人「卒業」していく。

引継ぎを受けるBさんは、
自分の仕事を別の人に渡すにあたり、
どうも身が入らないという。

「今回の人事に不満があるから、
なんか雑になっちゃう。
『テキトーにやっといてください』みたいな」

そうだろうねぇ。

「でもさっき、トイレで、
鏡に映った自分を見ながら、
こんなことじゃ、あかんなぁって……」

あ~…。

近頃みんな怒っている。

理由や怒りの矛先はいろいろだけど、
仕事が忙しくて時間がないから、
仕事がなくてイライラするから、
そして、
社会が悪いんだから、
怒っても無理もないと思っている。

でもそうだよね、
簡単に怒ることを、
簡単に怒って投げやりな態度を取ることを、
自分に許していたら、
そのうち心にオニが住み着いちゃうんだ。

「こんなことじゃ、あかんなぁって……」

彼女は、私達が忘れていた、大切なことを思い出させてくれた。

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コールセンター

工場のMさんが電話をかけてきて、

「聞いてくださいよ、ねこきちさん、Lさんいうたらね、
昨日の夜、急に送ってきたメールに、朝一番で、
『どうなりましたか』いうて……、
どうなりましたかって、
一晩でどうにかなったら僕、社長になれますって!
やってられませんわ、もう!
いや、別にねこきちさんに苦情いう気はぜんっぜんないんですよ、
でもね、Lさんから毎日毎晩、電話とメールで、
『なんとかして、なんとかして』
僕、ストーカーされてますねん、
いや、ほんまですって!
そのくせ、こっちががんばって作った分はもう、急にいらんとかね」

以上のことを息継ぎなして一気にいう。

「勝手にしやがれ!いうてね…。
あ、沢田研二。
ちょっと古すぎます?」

そこだけ急に自信なさ気になる。

「古すぎませんよ、ど真ん中ですよ」と私。

するとうれしそうに、

「あ!いけます?
ピンクレディーとかいけます?」

「いけますよ、ピンクレディーなら歌って踊れます」

「ほんまですか!
嬉しいわぁ、よかったわぁ」

何の電話なんだか……(笑)

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5S(ごえす)

「モノがあふれているから、新しいタンスを買う」

といったら、夫に即、却下された。(あたりまえか)

夫は「まず整理!」という。

「整理整頓」などとまとめていうけれど、
「整理」と「整頓」は明確に違って、
「整理」とは、
「要るものと要らないものを分け、要らないものは処分すること」

「整頓」はそうした上で、
「要ると判断したものを、すぐ取り出せるように整えること」なのだそうだ。

「残り3Sは?」と聞いたら、

「清掃・清潔・躾(しつけ)!」とよどみなく答えた。(「習慣化」とする場合もある)

夫は会社でもちまわりの「5S委員」をしていたから、
ちょいとウルサイのだ。

元同僚のN嬢も、私より10も年下というのに、
ずーっとしっかり、きちんとした人で、

「ファイリングは発生したとき済ませる」

を実践していた。

次々届く注文書、要保存資料等々を、
”手が空いたときにファイルしよう”などと
「とりあえずの場所」に山積みにしてはいけないのだそうだ。

「そんなことしたら、余計時間かかるねんって!
仕分けしたり、日付順に並べたり…。
ファイリングは発生した都度やる!
そうすれば、ちゃんと勝手に日付順に並んでるし、いつでも取り出せるでしょ」

私はいたく納得し、以来、会社では、
都度ファイリングを忠実に実践している。
(ふ、普通か…)

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スーパーウーマン

「朝、ジョギングしてシャワーを浴びて、
洗濯物を干してから会社に来ている」といったら、
同僚が、
「へーっ、結構スーパーウーマンやね!」と仰天した。

いやいや、私が面倒みているのは私自身と、
せいぜい、夫を少しくらいなもので、
スーパーウーマンというのは、
ハマコさんみたいな人をいうのである。

ハマコさんは1歳になったばかりの2番目を保育園に入れて、
このほど正社員で職場復帰した。

育児休暇を取っている間に、若干会社の組織が変わって、
前とは違う仕事をすることになったという。

ハマコさんは朝起きてご主人と一緒に、
3歳と1歳の息子にご飯を食べさせ、
着替えをさせて、保育園に送り届け、
その後、ラッシュ時の電車に乗って出勤、
新しい仕事をこなしているのだ。

就業中は、出来の悪いおじさん達の面倒をみ、
それが終わればお迎えに行き、
寝かしつけるべき時刻までに2時間しかないらしい。

その2時間の間に、今度は夕飯を食べさせ、
その日のできごとをおしゃべりしつつ、
お風呂に入れ、着替えさせて、
ああもう、考えただけで目が回るような生活なのである。

そのハマコさんが誕生日にメールをくれて、
返事を打つのに、
「ムリしないでね」と書けなかった。

ムリは絶対にしているはずで、
どのムリも、省けないだろうからである。

だから、苦しまぎれに、
「ムリしすぎないでね」と書いた(笑)

スーパーウーマンというのは、
ハマコさんみたいな人をいうのである。

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食堂のメニュー

社員食堂の掲示板には、
その日のメニューの写真が貼ってある。

私達はその写真群の前で、腕組みして考え込む。

食べたいものがいろいろあって、
どれにしようか迷う日もあれば、
心惹かれるものがひとつもなくて、
途方に暮れることもある。

私は魚が好きなので、
魚度が高いが、
先日はほっけの開きだった

「ほっけかぁ~」

というと同僚が私の顔を見て続きを待った。

「いいねんけど、でっかいねん。
お皿からはみ出てるし、
45分まるまるかかっても、食べきれないんだ」

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話の続き

職場でお昼休みに、昼食を取りながらいろいろ話していると、
話題の途中でチャイムが鳴ってしまうことがある。

私達は欲求不満を抱えたまま、「じゃあね」といって、
それぞれの席に散らばる。

先日、午後一のネットニュースをチェックするまもなく電話がかかってきて、
いきなり仕事モードに入っていたら、
Y子さんからメールが飛んできた。

「さっきの件、名前わかりました。
ギターを弾きながら漫才やる人たちは、
『横山ホットブラザーズ』でした!
(母にメールで聞きました)」

すぐさまモコモさんから第2便が入る。

「『母に聞きました』って…どんだけ気になってるねん!

『横山ホットブラザーズ』かぁ。
それって、でっかいノコギリみたいのを使って、
『おーまーえーはー、あーほーかー』って音出す人たちと、
同じかな~?」

すかさず私も打ち返す。

「>『おーまーえーはー、あーほーかー』って音出す人たちと、
同じかな~?
『ちがう』に一票!」

そこへU子さんが、ウィキペディアの情報を引っさげて参戦してくる。

「『ミュージックソー:横山ホットブラザーズの場合は、椅子に座り、
取っ手の部分を太ももではさんで固定し、
先端を左手で持ち、右手に持ったバチで叩くことによって音を出す。
普通に叩くと「バンバン」としか鳴らないが、
叩き方を工夫すると打音とともに「びょぉ~ん」という音が鳴る』」

そうこうする合間に私達は、
工場をせっつき、
得意先に詫びの電話を入れ、
営業マンに状況説明のメールを書かなければならない。

私達は忙しい。

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かっこよさの定義

最近はテレビなどで、少女マンガに出てくるような、
日本人離れした端正な顔立ちの男の子達を、
ちょくちょく見かける。

友達と、「かっこいいよネ~」となどとくちではいうけれど、
あんまり心がこもっていない。

私が鼻の穴をふくらませて、
目をハートにして本当にかっこいいと思うのは、
この歳になると、

「仕事ができる人」

なのである。

仕事ができるといったって、
ノーベル賞級の大発見をするとか、
何十億円の商談をまとめるとか、
1km先からでも一発で悪い奴を仕留めるゴルゴ13みたいな、
そんな大それたことではなくて、
例えば単調すぎてミスっても仕方ない作業でも、
淡々といつも通りに間違いなくこなすとか、
自分の誤りを指摘されたとき、
「あー、これねぇ、まぎらわしいからなぁ」などと言い訳せずに、
まず素直に「すみません」とわびるとか、
無理難題を押し付けられて、キレても無理もない場面で、
怒りを受け流して「わかりました」と、
最善の策を講じるとか、
そういうことなのである。

そして、そういう人は意外に少ない。

そして、そういう点で、東北物流のMさんはかっこいい。
一度も会ったことないけど、
文句なしにかっこいい。

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くうぅっ

私が子供の頃は、太陽を見るのに、
色つきの下敷き越しや、
ススをつけたガラス越しならよしとされていたけれど、
最近は「目を傷める」といって、
そういうお手軽な代用品は禁止されているそうだ。

だから、「日食メガネを買う」といったら夫が、
「うん」と答えた。

「でも、どこでどうやって見るつもり?
22日っていったら、水曜日で、
普通に会社だよね?」

くうぅっ…。
Photo

私は男泣きして、このやりとりを同僚に話し、
そして宣言した。

「22日、晴れたら、
私、朝、急にお腹痛くなるかも知れないから、
そのときは電話する」

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サラリーマン賛歌

土曜日の各駅停車はすいていて、人影もまばらだった。

向かいの席には30代前半と見える男性が座って、
静かに本を読んでいた。

次の次の駅で、いかにも落ち着きのなさそうな、
スーツを着た若造が乗り込んできて、
30代前半と見える静かに本を読んでいる男性に、

「あ、タナカさん!久しぶりッスねえ!」と声をかけた。

「おお、久しぶりやなぁ、元気か?」

本から顔を上げて薄く微笑んだタナカさんは、
若造の先輩らしかった。

会話によれば、ふたりは元同僚で、
少し前、若造の方が、嫌気がさしてあっさり会社をやめ、
目下求職中らしい。

若造は、落ち着きのない身振り手振りからも、
自信たっぷりな口調からも、
いかにも危なっかしい希望に満ち溢れていた。

「また土曜出勤ですかぁ?相変わらずですねぇ」

若造はタナカさんのいでたちを見て、
ちょっと小ばかにしたように顔をゆがめた。

「僕ね、今からまた面接なんっすよ、
めっちゃ条件いいとこでね……」

若造が降りていくとき、タナカさんは座席から少し腰を浮かして、
意気揚々たる後姿に、
「がんばれよ!」と小さく声をかけた。

いいなぁ、タナカさん。

タナカさんはもちろん知っているのだ。
会社をあちこち何回替わろうとも、
それぞれの職場にはそれぞれの働きにくさがあり、
気の合わない人がいたり、いやな上司にあたる危険があったり、
土曜出勤しなければならない日だってあることを。
その中で、やりがいを見つけ、自分の居場所を作っていくのは、
自分自身なのだということを。

それでもタナカさんは訳知り顔に、教え諭したりしない。

危なっかしい後輩の希望に満ちた背中に、
ただ静かにエールを贈るのだ。

「がんばれよ!」と。

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観葉植物

オフィスには、ドアを入ったところに、
人より背の高い観葉植物があって、
人々の癒しになっているのか、いないのか、
もしかしたら、そんなものがあることすら、
気づいていない人がほとんどかも知れないけど、
とにかく、ごくまれに、
なんとなく植木の元気がなくなってくると、
ある日突然、新品に入れ替わっていたりする。

レンタルの観葉植物なのである。

時々、作業服を来たお兄さんがバケツを持ってやってきて、
栄養剤が入っているらしい水を、木の根元にざぶざぶかけ、
葉っぱにシュッシュと霧吹きして、
一枚一枚丁寧にぞうきんで拭き、
枯れかけたものは取り除き、
一連の作業を終えると、無言で去っていく。

その間、誰とも、ひとこともしゃべらない。

呼吸しているかどうかも疑わしい。
ただ、目の前の植物と対話している。

あるとき、うちの自宅のユッカ(青年の木)が、
原因不明で元気がなくなったので、
ここぞとばかりにお兄さんをつかまえて、

「自宅のユッカの元気がないのですが、
どうしたらよいでしょうか」

と詰め寄った。

黙々と、植物の手入れするだけが仕事だったお兄さんは、
急に話しかけられてうろたえ、

「あの、その、えっと……」

へどもど要領を得ない。

なんだよう、あんたプロだろ!

と思ったけど、
ま、仕方ないか。

世の中にはいろんな職業があって、
いろんなひとが、いろんな風に、
働いているのだなぁと思う。
Photo_2

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一本の傘に

7月から遠くへ転勤する人の送別会があった。

不本意な異動なので、
新居を決め、引越し屋に申し込み、
車を売り払った今になっても、
辞令をなかったことにしてもらえるなら、
黙って喜んで受けるという。

幸い、おっつけ家族もやってきて、
一緒に住めるようになるらしい。

昔、会社で、単身赴任を強いられてしばらくしてのち、

「ひとつの傘に身を寄せ合って、
一緒に雨をよけ、風を耐えるのが家族なのに、
傘が2本あるからといって、
(=経済的に余裕があるからといって)
別々の傘で別々に歩いていくべきではない」

といって、会社ごと辞めてしまった人がいた。

数年後、駅でばったり出会ったら、
「いやあ、あのあと私も苦労しましたよ」と苦笑しながら、
でもどこか、家族を失わないで幸せそうだった。

単身赴任で離れ離れに暮らしながら、お互いをいたわろうが、
生活全体をそっくり変えて、家族も一緒について行こうが、
別々の暮らしを避けるために、
会社ごと辞めてしまって次の職探しで苦労しようが、
スタイルはそれぞれだとしても、
決して順風満帆なばかりでない人生のその時々を、
一緒に歩んでゆくのが家族なのだなぁと思う。

ちなみに、明日も別の送別会(笑)

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エコセンター見学

就業時間中に、「エコセンター見学ツアー」なるものに行かされた。

ホテルみたいな絨毯張りのフロアに、
パネルやら電球やらが設置されていて、
何をどのくらい節約すれば、
どれくらいのCO2が減らせるかというようなことを、
コンパニオンのお姉さんの説明を聞きながら、
ボタンを押したり、穴の中を覗いたりして、
体験する、というものだ。

例えば熱を発するシリカ電球を蛍光灯球に換えるだけで、
イニシャルコスト(最初の投資額)は増えるけれども、
13倍も長持ちするから、
シリカ電球が13回、切れては買換え、切れては買い換えする期間、
蛍光灯球1個で済むことになり、
省エネになるだけでなく、省資源にもなるとか。

へー、それはすごいね。

今のまま何もしないでいると、
2050年頃には平均気温が3℃も上がってしまいます、とか。

へー、それは怖いね。

ツアーが済んで解散となったあと、
私達はきらびやかな展示コーナーのひとつに戻って、

「見てこれ、この照明!それにこの設備!
省エネから程遠いよね~」

「本当に省エネっていうなら、コンパニオンのお姉さんなんか雇わずに、
窓際族のおじさんに説明させればいいんだよ、もったいない」

と辛口なのである。

”ツアー”という以上、
TDLの「シンデレラ城ミステリーツアー」や、
ユニバーサルスタジオの「バックトゥザフューチャー」みたいなアトラクションを期待していた私は、
がっかりして口数が少ないのである。

「こんなの一般の人が来て面白いとも思えない」

みんな文句ばっか。

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続けられるのは

上司との定期面談があって、

「いろいろ大変と思いますが、
今の調子で、自分のペースでやってもらったらいいんで」

と言われて、ちょっとうれしかった。

自分のペースで仕事ができるというのは、
例え大変でもありがたいものだ。

楽だけど、決まりきったやり方でやれ、
といわれたら、
私の場合は干からびてしまう。

適正診断の記事で、
荒波に呑まれても、自分で漕いで行きたい、
そういう人は、
どちらかというと発展途上の小さい会社向き。
反対に、
決まった手順に乗っかったほうがラクという人は、
大会社向きだそうだ。

若い頃、「今の仕事が向いているとは思えない」みたいなことをいったら、
同期だった男の子が、

「続けられるのは向いているうちだよ!」

と確信に満ちた調子でいった。

歳を取るにつれ、そうかもと思うようになった。
少なくとも、そう信じて続けている。(笑)

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根拠を示せ!

お気楽ねこきちの毎日にも、判断を迫られる場面はある。

例えていえば、やむを得ない事情で締め切りに間に合いそうにないとき、
「締め切りには間に合わないが、カンペキにして提出する」か、
「カンペキではないが、締め切りに間に合わせるか」というような場合。

時間を優先するか、完成度を優先するか。

他にも、決断しなければならない場面はいくらでもある。

どういう選択肢を選ぶにしろ、
「なぜそれを選ぶのか」を大切にする。

万一あとで問題が起こったときにも、
「あの状況ではこれが最善であった」といえる道を選ばなければならない。
「ただなんとなく…」ではいけないのだ。
それは、未来の自分に対しても、
できれば、
他人をも納得させられる根拠であることが望ましい。

ただなんとなく選んだ道と、
きちんと考えて選んだ道とでは、
道自体がおのずと違うだろうし、
もし結果が同じだとしても、自分の納得が違う。

”なぜそれを選ぶのか考えながら進んでいく”、
そのやり方は、
刻々と状況が変化する今の職場では、
身を守る手段でもある。

日ごろ、職場で、
判断の根拠があいまいで、しょっちゅう方針がぶれ、
あっちへごっつん、
こっちへごっつん頭をぶつけては、
周りの人を振りまわし、
溝にはまったりしている人を間近で見て、
強くそう思う(笑)

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職人わざ

いつも行く社員食堂にはいろんな人たちが働いているが、
わけても麺コーナーのチームワークといったら、
サッカーの国際大会を見ているような感じなのである。

小さい風呂桶ほどのステンレス製のシンクに、
お湯がぐらぐら煮立っていて、
そこに浸けた10個くらいの柄付きざるに、
おばさんのひとりが、冷凍の麺をぽいぽい放り込んでいく。

生煮えでなく、茹で過ぎでない、
ちょうどよい加減になった麺を熱湯からすくい上げたおばさんは、
たくましい腕でバッと湯きりして、
待ち構えている別の人が持った器に次々に入れるのだ。

呼吸が合わなければせっかく茹で上がった麺を、
床に落としかねない、
ほんのちょっとの躊躇も命取りなのだ。

受け取った人はそこへ熱々のつゆを適量注いで、
ネギ、わかめ、蒲鉾や、時にてんぷらやかき揚げなどを乗せ、
「お待たせしましたー」といって、ささっと出さなければならない。

しかも、麺と一口にいっても、パスタ、うどん、そば、
手打ちうどん、手打ちそば、ラーメンと種類があって、
それぞれ並んでいる人数が違うから、
パスタ2、うどん3、そば1、というように、
茹でる順番を、不満のでないように、一瞬で判断するのである。

そんな風に麺コーナーもすごいが、私が一番尊敬しているのは、
吸い物コーナーのおばさんで、
大柄で、物静かな感じのそのおばさんは、
列が出来ているお味噌汁を何杯か手際よく注いだあと、
スープのところに人が並んだら、
さっとそちら側に回って、
先にクルトンが入っているカップに、
日替わりスープを静かに注ぐ。

その量がまた、カップに対して、
多すぎもせず、少なすぎもせず、
特大のお玉から一回で注ぐのでどうしても垂れてしまう液だれを、
シュッと布きんでふき取る動作にも無駄がない。
しかも、いつも、きっちり、同じようなのだ。

これぞ職人わざ。

私はいつも、
その見事な「お玉さばき」にほれぼれと見入ってしまう。

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お疲れさまなのだ

月末最終日で、オニのように忙しかった。

なんだってみんな、
締め切り間際にいろんなことをやるんだろう?
余裕を持ってやろうよ!あ、それを私がいうか!?

ぜんぶの会社が締め切り目前であたふたするから、
あっちもこっちも、
ぎゅうぎゅうになるのだ。

お昼過ぎ、同僚からメール。

「××さんが、おやつ買って来てくれたよ。

コルネっていうのかなぁ

中が生クリームで、上にチョコでしゃしゃしゃっと斜め線が描いてあるのと、
中がカスタードで、
上に粉砂糖がさささっと降りかけてあるのと、
どっちがいい?」

そりゃ、カスタードだよう。

カスタードとなら私、心中してもいいわぁ。

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乾杯ふたたび

散り散りになった元同僚たちと集まった。
乾杯するのは送別会以来だ。

グラスを中央に持ち上げて、「カンパーイ」という。

新しい職場で働き始めた人も、
じっくり求職中の人も、
共有する思い出をネタに、のけぞって大笑いする。

厳しい社会情勢真っ只中の私達。

求職に疲れたひとりが、

「ああもう、はやくケッコンしたい」という。

「どんな人がいいの?」

「フツーの人」

それが難しいんだよねぇ…。

他の人が、

「ケッコンしたからって、仕事辞めてる時代じゃないよ」という。
「そうそう」

別の人は、食べ物もノドを通らないくらい新しい仕事を覚えて、
職場が替わって3日ほど、知恵熱を出したそうだ。

みんな、
それぞれの場所、
それぞれの立場で、がんばってるんだなぁ!

私も一歩ずつ進もう。
みんな、お疲れさま。

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防弾チョッキ

ぱんきちが、会社の事務机の上に、
シャーペンやボールペンをずらっと並べて、

「ほーら!」

と見せてくれたことがあった。

長いの、短いの、太いの、細いの、ぜんぶで13本あった。

「なくしたと思ってたわぁ」

なくしたと思っていたシャーペンやボールペンが、
いったいどこから見つかったかというと、
ぱんきちの”毎日着ている”制服のベストの、
表地と裏地のあいまからだそうである。

胸ポケットの内側に大穴が開いていて、
不幸にしてその穴に落ち込んだ筆記具が、
次々に表地と裏地の間の暗がりに吸い込まれ、
積もり積もって13本にまでなっていた。

筆記具はベストの中で、ずらーっと円を描くように、
日々、彼女を取り囲んでいたことになる。
若干、背中のほうに厚めにたまっていたそうである。

「なーんか、おっかしぃなぁ、って思っててん。
ベスト、重いなぁって」

ベスト?

制服のベストじゃないよそれ、
防弾チョッキだよ。
Photo

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金曜日音頭

金曜日がくると、ぱんきちはよく、

「金曜日♪金曜日♪」

といった。

ほどよい疲れと、週末が始まる期待感、
「金曜日♪」には、
無限のうれしさがこめられていた。

言い方には決まりがあって、

「きんようび!(ア・ソレ)きんようび!(ア・ヨイショ)」

という風に、ふしをつけないといけないのである。

やがてぱんきちがヨメに行って、職場を離れても、
金曜日が来ると私たちは、

「きんようび!きんようび!」

といった。

さらに、私が転職して職場を去り、
ハマコさんが育児休暇を取り、
シバコさんがヨメに行って転勤しても、
金曜日が来ると私達は、メールのやりとりの中で、
「きんようび!きんようび!」と音頭を踊る。

金曜日音頭はこうして歌い継がれる。
Photo

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ある日の帰宅ラッシュ

いつものコースで帰宅途中、いつもの乗り換えの駅で、
マサカのダイヤ乱れ混雑だった(泣)

すでに運転は再開されていて、
やっと来たらしい急行は、それでなくても帰宅ラッシュのギュウ詰め、
乗りたくないけど、
これを逃すと次のがいつ来るかわからないから、
助走をつけてタックルし、
押し込まれた先は座席シートぎりぎり付近で、
足はドアの方に残したまま、
上体だけ奥に押し込まれるもんだから、
斜めに傾いたまま、すし詰めとあいなった。

ちょっとのブレーキで、座っている人の上にのしかかりそうになるのを、
網棚を握って必死に耐え、
「前の電車がつかえておりますため…」とのろのろ運転になるたびに、
”ああ!もうダメ!”と白目をむいていたら、
誰かが握り締めたくしゃくしゃの紙に、
「号外」「小沢」「辞任」と見えた。

いつもの3倍疲れてやっと到着。

「週の立ち上がりから、勘弁してよ…」と思いつつ、
改札で、入ってくる人と出て行く人がすれ違うとき、
電車から降りてきた足の短いおじさんが、
これから乗りに行く足の長い男子高校生を、
必死に追いかけている。

なにごとかと見ていたら、

「きみ、きみ!」

男子高校生が改札で取り忘れた定期券を、おじさんが届けてやったのだ。

「あっ!スミマセン、ありがとうございます」

ふたりの間に、ぱっと笑顔の花が咲いた。

やぁやぁ、
疲れたけど、まぁ、よかったよ、めでたし、めでたし。

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噛み合わない

営業のTさんが、得意先訪問で気をもんでいる。
くちうるさいお客なのだ。

同行するSEのMさんの席に行って、
「MさんMさん、××の資料、そろってますよね?」

Mさんは鷹揚(おうよう)に、「ああ、はいはい」と答えた。

Mさん「で、何時ごろの電車に乗ります?」

Tさん「打ち合わせが昼いちですから、10時過ぎですかね」

Mさん「お昼、どうします?」

Tさん「向こうで食べましょう」

Tさんは自席に戻ってパソコンに向かっても、心配事があとから後から沸いて来る。

また、Mさんの席に行って、

「MさんMさん、
前回お客さんから宿題にされてた△△の件は、大丈夫ですか」

Mさんは適当にうなずいて、「はいはい。…で、お昼なに食べます?」

Tさん「駅前になんなとありますよ、うどんとか。それより、不良品解析のことですけど……」

Mさん「うどんか~」

Tさんが心配性なのか、Mさんがお気楽なのか。

ぜんぜん噛み合わない。

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涙がでちゃう

同僚は頭の回転が速くて、人の本質を見抜く力があるから、
ずばずばと毒舌極まりない。
例えば説明がうまくなくて、
ヘドモドしている人には真顔で、
「なにいってるか、わからん」とばっさり切って捨てるので、
若い男子からは「直球」などと恐れられている。

それでも、今年度から人数が激減して、
四苦八苦している人を察して、
関係のない電話応対も、我先に買って出るのだ。

さりげなく、やさしいのである。

また、ヘマをしたおじさんが、
本来彼女に頼むべきだけど、予想される彼女の正論に恐れをなして、
こっそり私に頼んできたやっかいごとも、
知らん顔すれば済むことなのに、
「ねこきちさんには関係ないでしょ、あたしがやる」といって、
取り上げてしまう。

ぶっきらぼうに、正義の人なのである。

「直球」だなんて、男性諸氏はわかっているのかなぁ。

いかにも女の子っぽくて頼りなげな人より、
彼女みたいなサバけたタイプの方が、
ずうーっと気配り行き届いていて、
思いやりがあるってことを。

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お客様目線

とある大手運送会社のすごく田舎の営業所に電話をかけた。

だいぶん以前の商品納入記録が会計監査でひっかかって、
データ通りの日付に本当にモノが届いているのかどうか、
得意先の受領印が入った送り状を、手に入れる必要があったのだ。

ぶっきらぼうな感じの年配の女性が出て、
「わかりました、FAX番号を教えてください」という。

そこまでは普通だった。

ほどなくFAX機から、A4一枚がするーっと吐き出されて来た。

これが予想外だったのだ。

私はちょっと驚いて、
自席に戻る道すがら、紙面の隅々に目を通す。

A4用紙の中央に送り状をコピーしただけの、
当たり前のFAXではない。

カーボン複写でかすれた宛名、
受領者が押した日付印の小さな氏名、
黒々と判別しづらい送り状番号等々が、
FAXでつぶれて見えにくくなることを考慮して、頼んでもいないのに、
それぞれまわりの余白に大きく手書きしてある。

それがまた、読みやすい見事な達筆なのだ。

たは~。

「気配り」「お客様目線」「かゆいところに手が届く」って、
こういうことなんだな~。

私は一枚のFAXをほれぼれと眺めて、脱帽するのである。

おばさん、あんたすごいよ。

電話応対がぶっきらぼうであることは別として。

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プラマイゼロなのに

例えば財布をなくして、

”ああもうどうしよう!!
どこ行ったんだろう??
結構入ってたのに。
あのお財布そのものだってすごく気に入ってたのに。
そうそう、カードも止めないと。
どんなカードを何枚くらい持ってたっけ。
どこに電話したらいいんだったっけ(泣)”

と、絶望の淵で右往左往した後に、
結局、思わぬところから見つかったら、
「元に戻ってプラスマイナスゼロ」という訳なのに、
何もなかった前よりも、だんぜんHAPPYということがある。

今日は、納期でモメてお客が押しかけて来て、
明日休日出勤か!?多額の賠償金発生か!?という窮地にあって、
定時まぎわにどういうわけか、
頑固な便秘が解消したみたいに、
スルスルっと全部がうまくいって、
工場の人とも、
お客とチャンバラしていた上司とも、
「ありがとう」「ありがとう」電話を掛け合い、
私はやれやれ気兼ねなく、花金を満喫できてHAPPYなのだ。

いや~、あたしゃ、ハッピーハッピー。

ん?
いや、でも、ちょっと待てよ、
そうじゃないよ!
モメたのはそもそもの原因があったからで、
それは別に、私のポカでもなんでもなくて……。

だまされないぞ!(笑)

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大勢いるんだから

私は時折、職場のおじさんに、
ひと気のない会議室などの暗がりに連れ込まれて(!)
いろんな話を聞かされる。

上司への不満のこともあれば、
奥さんや娘さんの自慢話だったり、
顧客の動向のこともあれば、
息子さんの彼女の話、
愛犬が死んだ、という家庭内事件のこともある。

定年退職してからの、夢のプランが議題だったこともあった。

「ねこきちさんはエライねー、××さんの面倒をみて」

時々、他の男性にしみじみした感じでいわれるけど、
冗談でしょ、
別にエラくなんかないのだ。

一日の中のわずかな時間、
しゃべりたがっている誰かの話を聞くくらい、たいしたことじゃないし、
気の合う人、合わない人、いろんな人がいて、
仕事だけ、あるいは家庭だけでも課題満載なのに、
その両方に事件が起こり、
起こる事件によってそれぞれの人のテンションが、
日によって上がったり、下がったり、
職場ってそういうもんでしょ。

そのとき、たまたま気持ちに余裕がある人が、
引き受ければいいんじゃないのかなぁ。

せっかく、大勢いるんだからさ。

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世直し

同僚のひとりがいう。

「ねえねえ、聞いた?Bさんの話?」

Bさんは、美人と評判の奥さんと、
ふたりのかわいい子供のほかに、
要介護の義父の面倒までみている中堅の営業マンである。

いつも明るく元気よく、
仕事熱心でそれでいて、「いつも心にお笑いを」という、
いまどき滅多にお目にかかれない貴重な存在にも関わらず、
気の毒なことにこれまで、上司に恵まれなかった。

下に尊大で、上に媚を売るような、
サイアクなタイプの上司に、長年アゴで使われてきたのだ。

そのBさんが、チーム会議か何かの席で、
ついに上司にキレたのだという。

「僕の査定はゼロでいいですから、
今日はいいたいことをいわせてもらいます」

そうして、その上司の理不尽な怒り方や気まぐれな指示に、
課員がいかに迷惑し、振り回されているかを、
どっちが上司かわからない勢いで、
理路整然と述べ立てたのだという。

以来、上司は「しゅん」として、部下であるBさんはじめ、
一同に気を遣い、課には初めて平和が訪れたということだ。

めでたし、めでたし。

この美談を聞くや、居合わせた女性陣は、
「キャー」と悲鳴に似た歓声を上げてのけぞる人、
両手を口に当てて息を呑む人、
みんな目をハートにして、「かっこいい~」と叫ぶ。

まあまあ、みんな、静かに静かに、
落ち着いて落ち着いて!

この「かっこよさ」について論じてみましょうよ。

「僕の査定はゼロでいいですから」
これが利いているよね?

やっぱ、「身を削って世直しする」
ここかなぁ?

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マルチタスク

ロバート・キヨサキ氏の教えによれば、
専門性を高めるのもいいが、
いろんな仕事をやってみる方がよりよいという。

いろんな仕事をすることで、
いろんなことができるようになるばかりか、
あらゆる方向に目が開けて全体を見渡せるようになる。

もちろん、専門性を高めれば、その道のスペシャリストになれる、ということはあるが、
スペシャリストとして食っていける人は、ごくごく限られるから、
「ちょっと経験のある普通くらいの人」にとっては、
極端に選択肢が狭くなってしまう。

この春、私達の職場を「卒業」した人に新しい仕事が決まり、
近くまで来たというので、お昼を一緒に食べた。

彼女だってもちろん、
慣れている分、これまでと同じような職種を希望してはいたけど、
求人件数が少ないこともあって条件を緩め、
選択肢を広げてみたところ、
新しい仕事にありついたということだ。

ほっとして、晴れやかな笑顔だった。

すべての仕事はどこかでつながっている。

だから、ぜんぜん違う職種に思えても、
経験は生かせるのかも知れない。
飛び込んでいく勇気が肝心なのかも知れない。

人でもオペレーションシステムでも、
マルチタスクがついている方がいい。

プロ野球選手だって、
「スイッチヒッター」、
「どこでも守れる人」は、重宝されるじゃないか。

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お花見弁当

あんまり天気がいいので、
コンビニでお弁当を買って、
みんなでお花見しながらお昼にした。

オフィスのそばの植え込みに、
近所の会社の人たちがずらーっと並んで、
背の高い桜を時々見上げながら、
「満開だねー」といっている。

私達のチームが思い思いの弁当を半分以上も平らげたころ、
向かいの植え込みに、
年齢不詳のふたりの男性がマクドナルドを持って現れた。

ひとり3袋も買っている。

そのうちの若ハゲの人が包みを開き、ハンバーガーをほおばりながら、
バンズ(パン)を小指の先ほどちぎって投げてみると、
さっきまで桜の木の枝にぶら下がっていた雀が、
たーっと降りてきてパクついた。

若ハゲの男性はそれを見て、
表情も変えずにまた、
バンズを小指の先ほどちぎって投げる。

雀が押し合いへし合い、奪い合う。

のどかで壮絶な光景なのだ。

そうやってちょっとだけ雀に分け与えつつ、
2個のバーガーを食べきったその人は、
次にフライドポテトの袋を手にとって、
また手でちぎって、ピンっと飛ばす。

何羽もの雀が必死の形相(ぎょうそう)で飛びかかる。

いいんだけど、
脂ぎったフライドポテトって、雀にどうなんだろう。
お腹、こわさないんだろうか。
油脂過多のような気がするけどな。(大きなお世話)

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上には上が

Aさんが配置換えで他部課からやってきたとき、
組むことになった女性陣は小躍りした。

当代まれに見る「きちんとキャラ」だったからだ。
「彼とならまともに仕事ができるかも」、彼女らはそう思っていた。

ところが、歓迎会も終わり、
新しい顧客へのあいさつ回りも済んでひと段落し、
さあ、これから拡売するぞ!という段になって、
担当顧客がふいに方針転換してその事業から撤退することになった。

「どういうことですか」と電話で顧客に詰め寄っていたAさんの、
裏返った声が忘れられない。

仕事がなくなり、
Aさんは仕方なく荷物をまとめて、もとの部課に戻っていった。

わずか数週間で風のように去っていったAさん。

彼が去ってまもなく、
一瞬組んでいた同僚が高いところにある書棚を開け、
開けたまま、合格発表みたいに長い間じーっと見上げていたが、
やがて席に戻ってきて、「見た?」という。

「さすがAさん。
あっという間に居なくなったのに、いつのまにか、
ファイルの背表紙全部、テプラしてある」

何事も自分スタイルでないといけないのだ。
歴代の人たちが書き連ねてきたどうだっていいぼろぼろのファイルの背表紙でさえも。

そのAさんのことが先日、飲み会で話題になった。

私の後ろの席の人が、やっぱりその「きちんとさ」に感心して、
「すごいよAさん」という。

「僕もたいがい石橋をたたいて渡るほうだと自分で思うけど、
いやぁ、Aさんは、なんていうか、もっとこう……」

誰かが作った石橋を点検するだけでは気が済まなくて、
「マイ(My)石橋」を持ち込んで渡ろうとするくらいの人らしい。

上には上がいるもんだ。

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スピリチュアリズムの入り口

スピリチュアリズムの入り口とは、
偶然と思われる出来事に、何かの「意思」を感じるかどうか、
ということだそうだ。

例えば、直前にキャンセルした乗り物が、
その後事故に遭ったと聞いたとき、
キャンセルに至った経緯に、
何かの「意思」を感じるかどうか。

「偶然だ」と片付ける人は入り口を通り過ぎ、
何かの意思を強く感じる、という人は、
スピリチュアリズムの入り口から入っていく。

私には、生死に関わる別れ目は、
「たまたまだ」と切って捨てる理由がある。

未曾有(みぞう)の大震災で、私は無傷で生き残った。
それはたまたまである。

それは偶然、家の真下の地盤が丈夫だったからで、
東西方向ではなく、南北方向に揺れたからであって、
何かの「意思」ではない。

それらは、たまたまでなければいけない。

なぜなら、
もし私が生き残ったことに意味があるなら、
亡くなった人が亡くなったことに意味があったか、
亡くなった人が生き残ることには、
意味がなかったことになってしまう。

だから私は、かたくなに「たまたまだ」と主張する。

でも、人の出会いは偶然ではないと信じたい。

今日、多くの同僚が「卒業」していった。

地球上にはおびただしい数の人々が存在することを思うと、
たまたま一時期職場を共にした同僚との出会いも、
奇跡ではないかと思う。

100年に満たない一生の中での、
ごく限られた人達との出会いには、
深い縁(えにし)があるはずだ。

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汎用性

同僚がある人を評して、
「あの人は汎用性がないからダメ」といったので、
なんとなく可笑しくて吹き出してしまった。

彼女によると「汎用性がある」というのは、
「誰からも受け入れられる」ということだそうだ。

今回、大勢の人が一度に退職を迎えるにあたり、
居残り組のひとりとして、
送別会の幹事もどきをすることになった。

ところが、派遣社員はひとりひとりが一匹狼、
ハッキリしていて、
同じ一人の人のことを、
ある人は「情があっていい人だ」というのに、
別の人は「優柔不断すぎて信用ならない」といい、
派遣同士はみんな仲がいいのだが、それ以外の人を招くにあたって、
それぞれの意を汲んでいたらぴーちくぱーちく、
収拾つかないのである。

一方で幹事もどきとしては、主賓が多い分、
スポンサーも集めなければならないから、
結局、メンバーを見てみんなが、
「なんでこの人が入ってんの?
まぁ、別にいいけど」という人を選ぶことになってしまった。

しかし、あなどってはいけない、

「まぁ、別にいいけど」

これが大切なのだ。

その人の名前が挙がったときに誰からも反対が出ない、
こういうのを、「汎用性がある」という。
今の場合、ここが肝心なのだ。

光り輝く個性を持っている人には、
汎用性など必要ないかも知れない。
なにもわざわざ、
茫洋たる野原に、せっかくの個性を埋没させることはない。

しかし、有り余る汎用性を持つこともまた、
ひとつの個性ではないかと思う。

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わかっちゃいない

工場のうら若い女子とメールで会話。

「ねこきちさんは、お酒は好きですか」
「いやぁ、大好きってわけじゃないけど、ほどほどに飲むかなぁ」
「私はお酒の席は好きですが、弱くてほとんど飲めないです」
「え!飲めなくてもお酒の席好きなの?」と私。
「だって、自分はシラフのまんまで、
だんだん酔っぱらっていく人たちを見ていて、
バッカみたい!って思わない?」
「思わないですよ~。メンバーにもよりますが(爆)」

ごもっとも。

少し前、以前の上司3人が、食事に誘ってくださった。

「ムトーさんと××さんと○○さんと飲みに行くんだ」というと、
母が仰天して気をもんだ。

「そんな立派な人たちの集まりに、あんたが行ってもいいの?
ご迷惑じゃないの?
なんの会?
どういう理由?」

あーあーあーあー

わかっちゃいないなぁ
楽しくお酒を飲むのに、別に理由なんかいらないんだって!

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啓蟄(けいちつ)

啓蟄…二十四節気のひとつ。冬ごもりの虫が地中からはい出るころ。太陽暦で3月6日ごろ。(大辞泉)

引継ぎが始まって、
毎日少しずつ新しい仕事を覚えていっている。

引き継いでくれる人は、
こんな風に職場を去ることになって、
理不尽な、あほらしい思いをしているだろうに、
ひとつひとつ、懇切丁寧に教えてくれるのだ。

帰宅後は、夜遅くまで求人サイトに向き合って、
仕事自体の少なさにおののき、不安でいっぱいだろうに、
前の席の人も、斜め前の人も、
左横の人も、
相変わらず、冗談と笑いが絶えない。

すごい人たちだ。
驚嘆する。

夜道を歩きながら、
「いろんな人にお世話になってるよナー」
と思うと、
酔っ払いみたいに、
なんだか泣けてきた。

生きているだけで、
生きて、
「みなさんありがとー、お互いにがんばろうねー」と思えるだけで、
シアワセじゃない?
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サバイバル

同僚の4月からの新しい仕事について、一緒に吟味した。

勤務地は?
時給は?
職場環境は?
結婚をして、もし離職しても、
また働くときに有効なキャリアは?

いろいろなパターンを想定して検証する。

彼女は私より10も年下なので、
10年前の私はというと、
どっぷりぬるま湯に浸かってふやけていた頃だ。
こんな風に先々のことまで、
考えていなかった気がする。

今の状況はタフにちがいないけど、考えようによっては、いい機会かも知れないなぁ。

珍獣ハンター・イモトのリポートによると、
ガラパゴス諸島における生態系の進化の過程では、
強い奴でも、
アタマのいい奴でもなく、
変化を受け入れ、それに柔軟に対応したものだけが、
生き残ってきたのだという。

社会環境の激変にも柔軟に対応すれば、
きっと生き残れる。

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考えごと

先日、高いところからジャンプして地面に跳んだら、
両足をそろえて着地、できるにはできたが、
耐え切れず前に手を着いた、

という話をしていた。

「高いところってどのくらい?」と同僚。「会社の事務机くらい?」

「いやあ、もっと高かった、もっと高かった」と私。

「腰くらいはあったかな~、胸くらいかも」
「……」
「でね、前に手をついた途端、
『ためしてガッテン』かなんかで前やってたのを思い出したんだ。
それが、若いうちは地面に降りた時の衝撃を体が吸収できるっていうんだよ。
でも、年取って筋力が衰えると、
まあ、バネがさび付いたみたいな感じで、
体がぼよよんとならないから、耐え切れず前に手を着いちゃうの!
筋力衰えてるんだなーって、哀しかったな~」

同僚は床(ゆか)の一点を見つめて考え事をしていた。
ぜんぜん聞いていない。
筋力の衰えがどうとか、そんなこと以前に、気になることがあったのだ。

「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、
なんでまたそんな高いところからジャンプしたの?
それって、どういうシチュエーション?」

あ……、気になってたの、そこ?

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義理チョコ

ある年のバレンタインに、
義理チョコを絶対にあげたい人ふたりと、
絶対にあげたくない人ひとりとが、
同じ課だったことがあった。

絶対にあげたいふたりの人たちは、
私のバカな失敗も笑って済ませてくれ、
話していて面白いし、人として尊敬もしている。
日ごろ、大変お世話になっているから、
ゴディバを選んでもいい。

一方、絶対にあげたくない人は、
毎日大勢の人に迷惑をかけているのに、
そのことを自覚していないし、
チョコなどもらおうものなら、
勘違いしちゃうような、うぬぼれやだったのだ。
チロルの一個もあげたくない。

でも、その3人が同じ課なのである。

悩んだすえ母に相談したら、

「みなさんに、まんべんなくあげなさい」

という、
良識的な、当たり前のコメントが返ってきた。

私はさらに腕組みして考えたすえ、
母のアドバイスを無視して、
自分の心に従うことにした。

今でも、ああしてよかったと思う。

母のいうことを聞かなくてよかったと思う、
数少ない出来事のひとつだ。

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「起きていることはすべて正しい」

今、どこの本屋でも平積みにされている、
ご存知、勝間和代さんのベストセラーのタイトルである。
本自体は精神論ではなくて、
「いかに人脈を広げ」、
「情報を収集し」、
「それらを最大限に活かすか」、
というHOW TO本だが、
私はタイトルそのものに強く共感する。

先日、考えさせられることがあったので、
自戒をこめて辛口に書く。

Lさんが部長に呼びつけられて、
彼が関わった案件について説明を求められていた。
Lさん自身の釈明は小声のためほとんど聞こえないが、
聞いていた部長が大きな声で、
「そこへ行くまでの詰めが甘かったわけやな」といったのが、
みんなに聞こえてしまった。

Lさんは実際、これまでにもいろいろとトラブルに見舞われてきた。
そして、大勢の人にカーボンコピーで配られるメールに、
「Lさん、もういい加減にしてください」などと書かれてしまった。

Lさんは心根のゆがんだ人ではないので、
まさかそれらのトラブルを他人のせいにしたりはしないが、
その代わりに、
「偶然たまたま不運だっただけ」と考える。
そして決まって、「まあ、なんとかなりますよ」という。

仕事においては、「自然になんとかなる」ことはないのだ。
誰か他の人が「なんとかした」のだ。
天命を待つのは、人事を尽くしてからなのだ。

次々と、三つ以上のトラブルが発生したら、
自分のやり方が間違っているのかも知れない、
と考えるべきではないだろうか。
トラブルの種類が違ったり、
明らかに自分の落ち度でないとしても、
三つ以上も続いたら、何かある。
読みが甘かったのではないか、
詰めがまずかったのではないかと考えた方がいい。

それを、
「自分は間違っていない、偶然たまたま不運だっただけ」
ととらえて目をつぶり、
嵐が去るのをただ待っていたら、
何年も同じ波間に漂っているだけになってしまう。
そしてまた別の大波が来たら、
結局ぐるんぐるん振り回されるだけだろう。
その姿は、私達誰もが目標とする、
「自分の人生を自分でコントロールする」からほど遠い。

起きていることはすべて正しい。

うまくいっていない部分を含めて、
現実をありのまま認めるところから、
次の一歩が始まる。

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エプロンをつけて

前の席の人とおしゃべりしていたら、
以前、希望退職したおじさんの話になった。

そのおじさんは、上乗せ退職金を手にして、
大手(おおで)を振って会社を辞めたのち、
自分を見誤って借金まみれになり、
見る影もなくなってから、彼女に泣き言をいいに来たそうだ。

「あの人とはもう関わりたくないわ」

彼女ははっきりしている。

「私、不幸もシアワセも、伝染すると思うから」

もっともだ、強く同意する。
やっかいな人には近づかないほうがいい。
不幸やシアワセは伝染する。

でも、それは相手がどうでもいいおじさんの場合であって、
旧来の親友ならば話は別なのだ。
例え次々と不幸が降りかかったとしても、
「あなたの身から出た錆び」といって、立ち去ることなんかできない。

そういうときこそ、
エプロンをつけて駆けつけたいと思う。

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いろんなことがつながっている

Tさんが、電話が遠いらしい相手に、
大きな声で、ゆっくりと、
「あ・さ・ま・や・ま・の」といっている。

浅間山と仕事となんの関係があるのかと面白いので、
聞き耳を立てていたら、
「ふ・ん・か・に・と・も・な・う」
と続く。

ますます面白い。

「い・お・う・の・う・ど・じょう・しょう・に・よ・る」

ふんふん。

「せ・い・ひ・ん・の・れっかに・ごりゅうい・ください」

へー!

火山が噴火したら大気中の硫黄濃度が上昇するから、
製品が劣化するのかぁ~。

家に帰ってその話をしたら、
夫にも仕事上、実際に経験があったらしく、
精密部品の不具合が起こって解析したら、
硫黄が奥に入り込んでいたそうだ。
「表面に付着」とかではなくて、
外から見えない部分にまで、入り込んでいたそうだ。

ふーん。
いろんなことが、
つながっているんだな~。

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あ~なるほど

ぱんきちがある日、
日ごろ毛嫌いしている同僚の男子に、
飴玉だったか、ひとくちチョコだったか、
ちいさいお菓子をひとつ、
あげたことがあった。

その子がちょっと驚いてお礼をいい、
立ち去ったあとで私が、
「へ~、偉いじゃん」というと、
「まーね」と答えた。

「一日一善。
今日はもう、これでノルマ達成だよ」

え……。

あ、そういうこと!?
さっきの、「一善」だったんだ。
あ~なるほど。

Photo

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よろしくね

Pさんは100キロはあろうかというぽっちゃり系の巨漢で、
立ち歩くと場所をとり、
座っているだけで視界を遮り、
何もしていないのにひとり汗をぬぐっているような人だったが、
あるとき健診でお医者から、
「今のままだと死にます」といわれて一念発起し、
すべての食品のカロリーと栄養素を、
それこそ仕事の商品知識以上に熱心に勉強して、
ご飯お茶碗一杯何キロカロリー、
ほうれんそうのおしたし何キロカロリー、
カキフライ5個で何キロカロリーと、
調味料込みでスラスラといえるまでになり、
成人男子の一日の必要摂取量以下に抑える毎日を送った。

そして、2ヶ月で16キロ痩せた。

そのPさんが席替えで、明日から私の左隣にやってくる。

体格が性質を引っ張る、というのは本当だろうか。
私は疑わしいと思う。

だってすっかり痩せたPさんは「普通の人」の体型になり、
面立ちも変わって「だれ?」というくらいになったのに、
性格はやっぱり柔和なままだ。

何をいっても、「えへへ」と微笑んでいる。

Pさんはコンピュータに強く、
重いものを率先して持ってくれるし、
商品や社内システムにも詳しいけど、
何をいっても「えへへ」と微笑むから、
私の中の「S」がむっくり起き上がって、
調子に乗ってつい、いじめてしまうかも知れない。

ごめんね、Pさん。
今のうちに謝っておく。

Psann

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立春から雨水(うすい)へ

3月末の大量雇い止めを受けて、暗澹たる気持ちでいたら、
被害を受ける当人達が、
結構前向きなのでちょっとほっとした。

斜め前の席の人は、はやばやと関係部門に公表したらしく、
注文が減って電話も減り、
シーン…となったオフィスに、
「そうかなーって、覚悟してたから平気です。
気持ちは前向きですよぉ~」と大きな声が響く。

同じフロアで別部署の、もうお子さんも大きい女性は、
「あたしは、今度仕事探すのに、
20歳はサバよまなあかんやろな~」といっている。

左隣の人は、「私の場合、就活もですけど、
いい加減、婚活もしないといけないんで」と自虐的に明るい。

酒豪の彼女に、
「日本酒コミュニティにでも参加したら」と提案したら、
「あー、よくいわれます」と盛り上がった。
「食の嗜好は毎日のことだから、大きいですよね」
自分が飲むのに、相手が下戸(げこ)だとか、
ちょっぴりしか呑まない人だと毎日がつまらない。
「でもさ、二人とも大酒呑みだと、
家計の酒代がかさみそう~」

歳の近い妹も同じく酒豪だそうで、
地方の地酒を仕入れてきてテーブルの真ん中に「どんっ」と置き、
「いくら出す?」というそうだ。
ちょっと姉である彼女が3対2くらいで支払い、
親も寝静まったダイニングで、
朝まで杯(さかずき)を重ねつつおしゃべりするらしい。
婚活なんかしなくても、充分楽しそう。

そうだよね~

私達は働くために生きているわけじゃない、
生きるために働いているんだ。

生きて生活し、休日の夜中に、
おいしい地酒を姉妹でちびちびやるために。

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ご無事で~

北九州で「春一番」が吹いたそうだ♪

英語がほとんどできないAさんと、
英語がぜんぜんできないBさんとで、
香港に出張することになった。

たいていは、
英語がよくできる人とあんまり出来ない人、
ちょっとできる人同士、
二人ともよくできる人、という組み合わせなので、
今回みたいに心細いペアはこれまでなかったらしい。

わりと慎重なAさんが不安になったのか、
一年に何回となく現地に行く課長に、
空港から事務所までの道筋を聞いている。

「そんなもん、すぐですよ」
「××ゲートから出て、タクシーに乗ったら……」
「タクシーなんか乗らんでも、」

行ったことのある人々が自席からわいわい割り込んで、
口々にアドバイスする。

課長はみんなの意見を黙って聞いていたが、
ふいに、
「B君、キミは、どうするつもりやったんや」
とBさんに水を向けた。

ずーっと聞き耳を立てていたBさんは、
さも、たった今気がついたみたいにパソコンから顔を上げて、大げさな調子で、

「あーっ!それねぇ、ボクねぇ」といった。

「あと30分したら、迷おうと思ってたんですよ。
まだ、そこまで行ってないんです」

無事、帰ってこられるのか……。

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トイレで泣く

長いOL生活で、
勤務中にトイレや更衣室で泣いたことが3回あった。

1度目はまだうら若きころ、上司の転勤を聞かされた時である。

ぱたぱた部長が突然、
「ねこきち君、お父さん(自分のこと)なぁ、転勤や」といった。
びっくりし、混乱して、
更衣室に駆け込んでブタ泣きしていたら、
当時のお局さまがすっ飛んで来た。

「どないしたん!?」
「ぱたぱた部長が……ブヒッブヒッ、
転勤なんです…ブブブ、ブヒッ」

お局様は拍子抜けしたように、
「なんや、びっくりするやん。
誰かにいじめられたのかと思ったわ」といった。
「そんなことでいちいち泣いてたら、
これからなんぼでもあるよ。
偉くなっていきはる人は、仕方ないやんか」

2回目はある年の夏休み前。

会社がちょっと法律に違反して業務一時停止になり、
その分、お盆休みを返上して出勤しなければならなくなった。
夏休みでもあるし、基本的には管理職だけでもよいが、
可能な限り、ヒラ社員も出てもらいたいという。
私はそのとき、
会社がちょっと法律に違反して業務一時停止になり、
その分、お盆休みを返上して出勤しなければならなくなるとは思っていなかったので、
連休をまるまる使ってヨーロッパ旅行を企画していた。

「海外かぁ。いいよいいよ、行っておいで」

普段、会社の役に立ちたいと思っていても、
いざという時に頼りにならなければ意味がない。
旅行には結局行ったが、
私は自分の不運を呪ってトイレで泣いた。

3回目はすぐ上の先輩が退職するとき、
お世話になったことを思って泣いた。

そして今回……。
4回目のそのときが来てしまった。

職場がついに、私達に大なたをふるう。

残される自分は感謝しなければならないのだろうけど、
不本意に別れる仲間のことを思うと、
ただもう寂しくて悲しい。
これからの職探しに不安でいっぱいだろうに、
「会社が決めたこと。ねこきちさんが悪いんじゃないんだから」と、
逆になぐさめられてしまった。
だから、そんなみんなだから、つらいのだ。

誰か盛大に、
景気の花火を打ち上げてくれないかなぁ!

社会問題のど真ん中にいる。

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ど真ん中

電車の中で、女の子が母親に聞いている。

「ねえお母さん、”しんどい”ってどういう意味?」
母親は普通に、
「”疲れちゃった~”っていう意味よ」と答えた。

え”ーっ!

私は耳をピクつかせて心臓がトクトクし、
会話に割って入って訂正したい。

違う違う、そうじゃないよ!
”しんどい”っていうのは、そんな単純なもんじゃない。
「あー、しんど」っていう時は「疲れた」って意味だけど、
だってほら、
「この値段ではうち、しんどいですわぁ」っていうのは、
「この値段ではうち、疲れちゃった」では、
意味通じないでしょ~?

”しんどい”っていうのは、その、
もっとこう、
なんていうか、
だからえーっと……。

職場でTさんに、
「ごめんな~、すかたんしてしもて」といわれた。
私は、
「あ、いいんですよ~」と機械的に答えながら、
「すかたん」に心奪われている。

昼食時、テーブルにつくや同僚に、
「『すかたん』って、なんて説明したらいいの」
と投げ出すように聞いた。

「Tさんに、『すかたんしてしもて』っていわれた。
わかるんだけど、説明しろといわれたら、うーん…」
「……」
「ちょんぼと同じようなことだと思うけど、
ちょんぼも標準語か疑わしいよねぇ?」
「ちがうような気がする」
「うーん」

物知りでしっかり者の彼女はあれこれ考えて、
やがて、
「うっかりミス」という的確な答えをはじき出した。

「あー、それそれ!うっかりミス!
それだよ、すっきりした、ありがとう」

一件落着したので私はほっとして、「いただきます」と手を合わせた。
彼女はしばらくの間、黙っておかずに目を落としたあと、
「しかしすごいな、『すかたん』かぁ~」とつぶやいた。
「Tさん、ど真ん中やね」

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月末なのだ

注文が激減してるのだからヒマかと思ったら、
月末はやっぱり「月末」だった。

疲れた。
脳のヒダが伸びきっている感じがする。

隙あらば寝たいのに、
なんとなく気は焦っていて、
ブログに書くことなんか何も思いつかない。

だから、ブログに書くことなんか何も思いつかない日のことを書く。

1ヶ月は30日くらいあるのに、
なんだってみんな、締め切り間際にしようとするんだろう。
わりとマゾ?
あ、私に対するサディズムか!
プリンタから出た連続帳票が、地面につくくらいデータ処理した。

「AになるかBになるか」と気をもんでいた案件が、
結局、「E」という結果に終わった。

人に頼まれて降って沸いた仕事を、
あれこれ手を尽くして処理したら、
あとになって、しなくてよかったことがわかった。

でもま、仕事ってそんなもんだよね。

好きなタイプの仕事を、
ちょうどよいタイミングで、
ちょうどよい量できることなんてないのさ。

好きな仕事は多すぎだり、
ちょうどよい量だけど、苦手だったり、
なんで今、このタイミングなんだよ!?って感じだったり、
ま、仕事ってそんなものだよ。

もっと若い頃、
「今の仕事が自分に向いているとは思えない」みたいなことをいったら、
同期だった男の子が、
「続けられるのは向いているうちだよ!」と確信に満ちた調子でいい、
私はそれを聞いて、なんだかとても気が楽になった。

彼はその後、メーカの営業マンを辞めて学校に入りなおし、
今や立派な理学療法士となり、
看護士の多い病院は「女社会」なので、
人に言えない苦労をいろいろとしながらも、
体がきかなくて落ち込んだお年寄りに長嶋茂雄の物まねなどして、
笑わせたりしているらしい。

彼に、「続けられる仕事」が見つかってよかった。

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大人だなー

職場で定期面談があった。

いろいろと意見を聞かれたので、いろいろと答えた。
ただの苦情はいっても仕方ないけど、
改善提案なら構わないだろう。

そんなことをお昼に話したら同僚が、
「いってくれるだけ、会社はありがたいよね」という。

「あたしは、絶対、なにもいわない」

私は目を見開く。
頭脳明晰な彼女から何の意見もなかったら、
会社はさぞ不気味だろう。

彼女は「相手を見て話す」ということができる人なのだ。

思うところあっても、
「いっても変わらない組織」には進言なんかしない。
思うところあっても、
「人の意見にハナから耳を貸さない人」
「逆恨みされそうな人」にはアドバイスなんかしない。
つまり、「相手を見て話す」ということができる。

大人だなーと感心する。

私もそうできたらいいとは思うけれど、ついいってしまう。

たぶん、心のどこかで、
「思っているのにいわないというのは、
『この相手は変わりっこない』と見限ること
『この人とはここまで』と線を引くこと、なんじゃないか?」と、
うすぼんやり考えている。

……。

でもやっぱり、「相手を見て話す」ってのが、たぶん正解なんだろう。
そのほうが、お互い無駄な労力を使わずに済む。

彼女は私より10も年下だ。
大人だなー

ちょっと前、爆問学問で太田光が、
「もういい加減、黙ることを覚えましょうよ人類は!僕も含めて!」
といってた(笑)

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新しいひざかけ

去年の忘年会の余興で、「USBひざかけ」が当たった。

パソコンのUSBポートに差し込んで、
ちょっとだけ、余分な電流を拝借し電気ひざかけに変身するという仕組み。

こんな「ちゃち」なのに、「ON」「OFF」切り替えスイッチと、
電源が入っていれば赤く光るLEDがついている。
毛布の面を両手のひらで触ると、袋織りになっていて、
中にちょっとごわごわした薄いものが挟んである。

昨日から会社で使い始めたら、思ったとおり、ほんのりだけ暖かい。

いいんだけど、ものぐさになりそうなのが難。
座ったまま、だれかれなく、
「ちょっとそれ、取ってもらえます?」といっちゃいそうな(笑)

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プレゼント

もう何年も前、シバコさんからもらったメモ帳を、
大切に、ちょっとずつ使っている。

ディック・ブルーナの展覧会に行ったとき買ってくれたもので、
6.5センチ四方の白紙の一枚一枚に、
王冠をかぶった特別なミッフィが小さく描かれている。

メモ帳は縦横だけでなく高さも6.5センチなので、
見かけはちょうど、大きいサイコロキャラメルみたい。
サイコロキャラメルの側面に、
全部の用紙を横断するかたちで、同じ、王冠をかぶった特別なミッフィが大きく印刷されていて、
上から使っていくので、
いま、耳の先っちょだけが欠けてしまった。

耳の先は、いろんなことを書いて、たくさんの人に配られた。

プレゼントがうれしいのは、品物そのものもだけど、
それを選んでお金を払うひととき、
その人が私達のことを考えてくれたからだ。

シバコさんはミッフィの展覧会に行ったとき、
私がミッフィに目がないことを覚えていて、わざわざお土産を選んでくれたのだ。
Miffy
王冠をかぶった特別なミッフィの耳の先は、これまでに、
いろんなことを書いて、たくさんの人に配られていった。

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そうじゃないよね?!

愛すべき後輩・ぱんきちがめでたくご結婚するとき、
課員一同でお祝いをすることになった。

何がいいか本人に聞いたところ、
「ちょっと考えてみる」といって何日も迷った挙句、
「フロノフタ」といってきた。

は?
フロノフタ?
……もしかして、「風呂の蓋」?!

「マジメに考えろ!」とクレームをつけようとしたところ、
横からハマコさんがすかさず、
「あ、いいやんいいやん、それ、風呂の蓋」
と合いの手を入れる。
「沸かしたお風呂、混ぜるときとかに便利だよね」

……。

ねえねえみんな、
結婚祝いにお風呂の蓋って、それ、ちょっとちがうよね?
それに、造り酒屋じゃあるまいし、
お風呂の蓋って、そういう風に使うものじゃないよね?
Photo

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どんなとき?

「どんなときに、”自分も大人になったなぁ…”って感じる?例えば私は、
『湯気の立ってるお鍋とか、どんぶりを持ち上げてみたらすっごく熱かったけど、
ここで手を離したら大惨事になるから、我慢してテーブルまで運んだとき』なんだけど?」

といったらぱんきちが、さんざん考えた挙句、

「ボタンかけてるとき」

と答えた。
Photo

ぱんきち、今も、ボタンかけながら、
「私って、大人になったなぁ…」ってしみじみしてるんだろうか。

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おつかれさま

仕事納めの金曜日、私達は送別会を終えて、

「おつかれさま」「おつかれさま」
「よいお年を!」「よいお年を!」
「元気でね」「元気でね」

といって別れた。

夜遅い電車は酔っ払いだらけ。

職場は、走り続ける鈍行電車と同じだ。
ある駅で乗ってくる人あり。
別の駅で降りていく人あり。

出会いと別れを繰り返すようで、
一度出会った人とは本当には別れないと思う。

例えなんとなく疎遠になっても、
わざわざ「別れよう」といって別れる羽目になった人とでも、
再会したら、「新しく出会った」とはいわない。

この世を去った人でさえ、残された人々の心の中で生き続ける。

最寄の駅に着くと、夕方に降ったらしい流れ雪が凍って、
陸橋の上はすってんころりん、滑りそうにつるつるしていた。

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王様の耳

その課長さんは、頭髪はロマンスグレー、銀縁の上品なメガネをかけ、
いつもニコニコと柔和そうな笑顔で物腰も柔らか、
メーカーの万年課長というよりは、どこか、”小さなパイプオルガンがある森の教会の牧師さん”といった風情だったので、
彼の頭に乗っかっているのが、実はまるごと全部カツラなのだと知った時は仰天した。

「絶対、ぜったい、ぜーったいに、誰にもいっちゃだめだよっ」

そう前置きしてこの巨大な秘密を告げると、ぱんきちは目をまんまるにして驚き、
そわそわと、落ち着かなく歩き回り始めた。

おしゃべり好きのぱんきちには、「××課長がハゲである」というオドロキ以上に、
それを秘密にしておくことが大変だったのだ。

一日を耐え抜いたあと、帰宅して庭に穴を掘り、叫んだという。

「王様の耳はロバのみみ~、王様の耳はロバのみみ~
××課長はハゲあたま~、××課長はハゲあたま~」

Photo

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求む「拾う神」

会社に入って間もない頃、ゴルフコンペの案内をワープロ打ちするように言われた。
レポート用紙に上司の汚い字で書かれた原稿を見ながら打っていると、
「場所:ABCC.C」とあるので、間違いだろうと思い、勝手に「場所:ABCDE」と打ってみた。
ゴルフのゴの字も知らない新入社員時代である。

出来上がった原稿を見て上司はげらげら笑い、
「これ、『ABCカンツリークラブ』だから、C.Cでいい」と訂正。

古きよき時代であった。

上司に、「お菓子買ってきて」といわれて三千円を渡され、
それは当然、得意先に持っていく「菓子折り」のことだったのに、
いそいそと近所の駄菓子屋に出かけ、スナック菓子を三千円分、両手にいっぱい買って帰った人もいた。

古きよき時代であった。

近頃は、内定をもらっていながら、入社して上司を唖然とさせる以前に、入社すらできない学生がいるらしい。
時代の流れとはいえ、自分が社会に出てから学んだこと、会社や上司に教わったことの多さを思うと、
門前払いを受ける学生達が本当に気の毒でならない。

「拾う神」が現われてくれればいいんだけど。

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忘年会いろいろ

忘年会その1で、前の前の前の上司が、
「ねこきちさんはどうするの、ずっと働くの?」
と穏やかに訊くので、
「働きます、働きます、ずーっと働きます。
立ち上がれなくなるまで働きます」
と答えたら、可笑しそうに微笑んでいた。

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忘年会その2で、普段ほとんどプライベートな話をしない人が唐突に、
「今度3月に第一子が生まれるんです」とうれしそうにいった。
会の間じゅう、いつになく上機嫌だった。

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忘年会その3の一次会で、普段、人の好き嫌いがハッキリしていると目されている同僚が、
気持ちよく酔って「握手魔」に変貌していた。
「貧乏人は飲み放題に弱いっ」といいながら時々、
思い出したように、誰彼なく握手し、
どんどんグラスを空けていたら二次会で気持ち悪くなった。

何度かトイレに駆け込み、だんだんすっきりしてきて、やがて閉店時間で店にも追い出されたので、
駅までぶらぶら歩く途中で、「携帯がない…!」という。
依存症というほどではないにしても、常に電話を手放せない人なので、
みんな慌ててさっきの店に戻ったら、何回か駆け込んだトイレからうれしそうに出てきた。
「ゴミ箱に捨ててたわ」

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これでいいのだ

Photo_4

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寒い日は

温熱便座で暖をとります。

Nukui_2

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美の概念

おしゃべりの途中で右隣の人が、パッと自分の引き出しを開けた。

飴玉、チョコレート、輪ゴム、ゼムピン、クリップ、付箋、ペン

色も形も大きさもバラバラな小物が、なんの脈絡もなくぶちまけられていた。

……。

あっけにとられたまま私が黙っていたからだろうか、彼女は舌をぺろっと出して、 「ぐっちゃぐちゃなんです」と照れたように笑った。

いやいやちがう、 私はあきれていたんじゃなく、見とれていたのだ。

この無作為、この混沌、自分の頭のなかのようなごちゃごちゃを、写真に撮りたかった。

“美”ってなんだろう。 Moekosann

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だからさ…

「それじゃ、定時後だったらおなかすいてるから、ご飯食べてからジムに行く?

それとも、ジムに行ってから、ゆっくりご飯食べる?」

と聞くと、ぱんきちがうれしそうに、

「さんせーい♪」と手を挙げた。

だ、だからさ… Pankiti_5

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「上海帰りのリル」

ぱたぱた部長は酔うとたいてい、スナックであろうとカラオケボックスであろうと 「上海帰りのリル」を歌った。

「上海帰りのリル」津村謙
作詩:東条寿三郎 作曲:渡久地政信

船を見つめていた
ハマのキャバレーにいた
風の噂は リル 上海帰りの リル リル
甘いせつない 思い出だけを
胸にたぐって 探して歩く
リル リル
どこにいるのか リル
だれかリルを 知らないか

黒いドレスを見た
泣いていたのを見た
もどれこの手に リル
上海帰りの リル リル
夢の四馬路の 霧降る中で
何もいわずに 別れた瞳
リル リル
ひとりさまよう リル
だれかリルを 知らないか
Patapata
たぶん、もの悲しい歌だったに違いないが、部長の風貌が風貌なので そうもいかないのである。
せつなさどころか笑いがこみ上げてくる。

女子社員は最初、クスクスから始まって、しまいにはげらげらと無遠慮に笑いながら、「リール♪、リール♪」とサビの部分を一緒に歌った。

でも、そこしか思い出せない。

部長、お世話になりました!

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珍味を食べながら

午後2時ごろお茶室に行くと、先輩女子社員が隅っこの暗がりで、コンビニで買ったおにぎりを、あたまから丸呑みしていた。
「会議が長引いてね~、お昼食べ損なったの」
その人はつっかえた胸をたたきながら眉根を下げて、弁解するようにいった。

しかし前の会社ではぜんぜん違った。

ハマコさんは妊婦のとき、おなかが減って仕方ないので、午前のうちから自席で菓子パンをぱくついていたそうだ。 自席で菓子パン食べていても、誰も気にしないのだ。

そういえば、北海道に案件があったころ、しょっちゅう現地に行く営業の人が、貝柱の干したのをお土産にくれたので、みんなでくちゃくちゃやりながら仕事してたなぁ。
広島に案件があったときは、牡蠣の干したのとかもあったっけ。

昼間っから、珍味を食いながら仕事する人たち。

へんな職場!(笑)

Hamachan

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「さと」の看板

ある日、ワタナベさんが出勤するなり、
「ムトーさん、和食レストラン『さと』の看板は、どうやって回っているんでしょうか」
とたずねたことがあった。

ムトーさんはぎょっとして図面から顔を上げ、とりあえず場つなぎに「さぁ~、どうだろうねぇ」と答えた。

「さと」の看板というと、赤地に、やわらかな白い字で「さと」と抜いた黒い看板が、店先でずっと絶え間なく一定方向に回っているあれである。

「だってほら、一定方向にずうっと回っているのは、おかしいじゃありませんか、どうやって動力を取っているんでしょう」
ワタナベさんはあくまで真剣なのである。
「電気なら、コードが巻きついてしまうでしょう?」

「うーーーーんっ」 ムトーさんは大変困って、図面どころではなくなった。くるくるくるくる、「さと」の看板に取りつかれたのである。 結論はどうだったか聞かずじまい。

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お昼ごはん

主婦のKさんも、一人暮らしの方のKさんも、お弁当を作ってきているらしい。

「えらいねー!」と目を丸くしながら、今の自分はやる気がぜんぜんないことに気づいた。
なぜなんだろう。

以前、だんなに作っていたけど、ちっとも節約にならなかった。
毎日ご飯を炊かないといけないし、お弁当箱も洗わないといけない。
晩御飯の残り物ばかりでは可哀想だから、お弁当用のメニューを考えていたらくたびれて、かえって手間とコストがかかった。

子供が幼稚園などに通っていたら、四の五のいっていられないから、それを淡々とこなしている人たちは本当に立派だと思う。
でも、今やりたくないのは、手間とか、コストとか、そういうことじゃないみたい。だんなさんが「食べたい」といえばまたやるだろう。

たぶんこうだ。

私はお昼ご飯タイムがとても楽しみなのだ。 友達とおしゃべりするのも楽しいし、食堂のしょぼいメニューに悪態をついたり、掲示板に貼ってある「食堂へのご意見・ご要望」シートのやり取りを見て、「いろんな人がいるんだな~」と感心したり、たまに好きなメニューに当たって、いそいそと列に並ぶのも楽しい。

それに引き換え、自分が作ったお弁当なんて、開ける楽しみもない。

お弁当は誰か他の人のために作るものだと思う。

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ぬくぬく

くまくま課長がある日、工場の人とチャンチャンバラバラ電話でやりあったあと、
「がちゃんっ!」と受話器を置いて、「まったく…」とつぶやいた。

「信じられんな、あいつら!お客の状況がぜんぜんわかっとらんっ。
今頃そんなこといわれても、客にどういえばええんや。 狐につつまれたみたいや!」

Kitune
課長、それはたぶん「つつまれた」じゃなくて「つままれた」ですね。

おつかれさまです。

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小声で叫ぶ人

左うしろの席の人が、自席の前に立ってうつむきながら、
「半導体は産業のコメ!」「半導体は産業のコメ!」と小声で叫んでいた。
Turutanisann
無理難題を言いつのるお客に、来る日も来る日も厭味をいわれて、そのときはよほどつらかったのだろう。

それでも、「半導体は産業のコメなのだから、自分の仕事が産業をまわしている」というわけ。

明日、晴れるといい。

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美意識はどこへいくのか

今年3月ごろ全社的に、グーグルやヤフーが提供するフリーメールや、Skype、G-Mailといったインスタントメッセンジャー系のすべてが、「情報セキュリティ」の名のもとに使用禁止になった。所員はぶうぶういいながらも、情報システム担当のおじさんが、あたふたして、みんなの座席を回るのが気の毒で、言われた通りにプログラムを削除した。

わざわざメールを書くほどでもなく、電話かけるほど緊急でもない案件について、離れたところの人にちょっと話しかけるような感じで利用できるインスタントメッセージは、海外などではれっきとした仕事ツールのひとつとして認知され、その便利さは誰でも肌で感じているというのに。

その後、「誤送信が絶えないから」という理由でFAX利用が制限され、代わりにPDF化したファイルをメール転送することになり、ここ最近は席を立つときも、トイレくらいはともかく、昼食時などまとまった時間は、スクリーンセイバーは起動まで3分以内に設定、メールプログラムにはパスワードロックをかける、机上に書類をむき出しにしない、果ては、外出して戻らない人の机に電話メモも置きっぱなしにするな、という。「その席に誰が座っているか、特定されてはいけないから」ということらしい。

そもそも、勤務するビル自体にカード認証なしには入館できず、さらに、100名弱が在籍する今の部署には、別のカード認証なしには入室できないのに、その有様なのだ。

それでいて、セキュリティプログラムの全部をマイクロソフトに頼っている。定期的にアップデートを要求され、あっちでもこっちでも、長時間マイクロソフトにアクセスしてファイルをダウンロードしている。

「マイクロソフトが悪徳業者だったら、うちの会社の情報じゃじゃ漏れですね」といったらおじさんは黙っていた。

その息苦しさに目を白黒させていたら、どうやら「ISO27001」を取得しようとしているらしい。
そういうことか。

品質に特化した「ISO9001」、環境に特化した「ISO14001」、お次は、情報セキュリティに特化した「ISO27001」。
ISO運営機関に踊らされているんじゃないのか? お次はいったい、どんな認証が生まれることやら。

江戸時代、厳格な宗教を持たない日本人が、200年以上もの長きにわたり、平和で安定した鎖国状態を保ち続けられたのは、美意識に支えられてのことだったという。

士農工商の属性を問わず、「人として恥ずかしい」という思いが、人々に「自分を律する」ことを教えていた。

あーあ、こんなにがんじがらめじゃ、そのうち、「叱られるから」「罰せられるから」「解雇されるから」、人々は悪いことをしなくなるのだろう。

美意識はどこへいくのか。

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