たぶんお正月だったと思うが、甥っ子がまだほんの赤ん坊だった頃、夫と私、姉、甥の4人で出かけたことがあった。
ひと通り買い物を済ませて駐車場に戻り、さあ帰ろうというときになって姉が、
「やっぱりもうちょっと見たいところがあるから、悪いけど、この子を連れて先に帰っててくれない?」という。
私たちは快諾し、夫が運転席、私が甥を抱えて後席に乗り込み、ドアをばたんっと閉めると、甥はすぐさま異常を察知し、私の膝の上で顔をひきつらせてリアウィンドを振り返った。
彼の母親は天井の低い、薄暗い、陰気な駐車場の弱々しい蛍光灯の下で、にこにこと手を振っている。
車が発進し、手を振る姉が遠ざかっていくと、甥はすぐさま、
「ママが!ママが!」と絶叫した。
「ママね、まだお買い物」
といっても、ますます顔が赤くなって風船を膨らましている人みたいなのである。
「ママが!ママが!」
甥は私の膝の上で立ち上がり、黄色いひよこを刺繍した、白いカーディガンの身をよじって、絶叫しつつぼろぼろと涙をこぼす。
「なんで!なんで!」
「危ないから座りなさい!」
「なんで!なんで!」
「こらっ!」夫も前から加勢する。
「ママがぁぁぁ!」
怪力なのである。
「赤子の手をひねるより…」などといった人は赤子の怪力を知らなかったに違いないのだ。
「ママがぁぁぁ!なんでぇぇぇ!うおおおおおお」
狭い車内に阿鼻叫喚が響き渡った。
どうせ心細さだったに違いないが、彼の主張はあくまでも、「(置き去りにして)ママがかわいそう」というものだったように思う。
甥よ、あんた30年後も、そうやって身をよじって、ヨメから年老いた母を守ってやんなよ。
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